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クルヒアクルヒ日記

野球と音楽が好きな人です。

#68 青春を運ぶ車輪

 

キーキー  キーキー

 

僕は悲鳴をあげる錆びついた車輪に乗って

駅へと運ばれていった。

明け方の話だ。

 

 

ペダルを漕ぐ僕の背中には

たしかな温もりがあった。

彼女が寄りかかっていた。

 

 

線路沿いの上り坂を漕いでいると

 

「もうちょっと、あと少し」

 

と君が言う。

とても楽しそうだ。

 

 

いつもはあんなに賑やかなのに

明け方 街はとても静かだった。

 

「世界中に2人だけみたいだね」

 

と僕は呟いた。

 

 

同時に言葉を失くした。

上りきった坂の先で

僕らを迎えてくれた朝焼けが

あまりに綺麗すぎたから。

 

 

その時 君は僕の後ろで笑っていただろう。

でも僕は振り返ることができなかった。

涙が止まらなかった。

君にそんな姿 見せることは できなかったよ。

 

 

 

駅前で車輪は止まった。

 

 

 

券売機で切符を買うとき

君は1番端にある1番高い切符を選んだね。

でも僕はそこがどんな場所なのか知らない。

そう思いつつ この中で1番安い入場券を僕は買った。

僕は 大事に 大事にポッケにしまった。

すぐに使うってことはわかっていたけど。

 

 

 

一昨日、君は大きなカバンを買ったね。

君には大き過ぎたよ。

改札に引っかかっているじゃないか。

そして助けを求めるように僕を見てきた。

 

 

目を合わせず下を向いたまま

頑なに引っかかるカバンの紐を僕の手が外した。

外したくなかった。

 

 

 

ベルがホームに鳴り響く。

 

 

 

最後を告げるお別れの合図だ。

君のためにドアが開く。

何万歩より意味のある 距離のある一歩を

君は踏み出して僕に言った。

 

 

 

「約束だよ。必ず いつの日か また会おう。」

 

 

 

僕は応えられずに俯いたまま手を振った。

君の姿を見ることができなかった。

 

 

 

 

 

 

でもそれは...

 

あの時 君は間違いなく...

 

 

 

 

 

 

ドアが閉まる。

 

 

 

僕は走りだした。

 

 

 

駅を出て線路沿いの下り坂を僕は飛ばした。

風よりもはやく、君に追いつこうと。

 

 

錆びついた車輪はまたも悲鳴をあげている。

精一杯電車に並ぼうとするが

ゆっくり ゆっくり 距離は離されていく。

 

 

 

 

あの時...

 

 

 

 

あの時 君は泣いていたんだろう。

 

ドアの向こう側で。

 

 

 

 

 

僕は知っていたよ。

顔なんて見なくたってわかったよ。

君の声は震えていた。

 

 

 

「約束だよ!必ず いつの日か また会おう!」

 

 

 

僕は離れていく電車に向かって

君にも見えるように

大きく 大きく 手を振った。

 

 

 

坂を下り終えた頃、街は賑わい始めていた。

明るくなったはずの街で

僕は置いてけぼりになった。

 

 

「世界中にひとりだけみたいだなぁ」

 

 

と小さく呟いた。

 

 

 

 

キーキー キーキー

 

 

僕はまたペダルを漕ぎだした。

錆びついた車輪は悲鳴をあげている。

それでもゆっくり運んでいく。

残された僕と 微かな君の温もりを乗せて。

 

 

 

 

 

 

っていう唄。